【工事中】金属3Dプリンターの熱処理
「切削では作れない形」をどう作るか

ものづくりの現場では、「この形状は理屈上作れても、加工方法が見つからない」という壁に直面することがあります。
内部が空洞になった部品、複雑に入り組んだ冷却流路、複数パーツを組み合わせなければ実現できない構造
――こうした課題を解決する手段として注目されているのが、金属3Dプリンター(AM加工)です。
AM加工は、金属粉末を薄く敷いてレーザーで溶かし固める工程を繰り返し、一層ずつ形を作り上げていく技術です。
塊から削り出す従来の切削加工とは対照的に、「必要な場所にだけ金属を積む」という発想のため、複雑形状でも一体成形が可能になります。
対応材料はステンレス鋼、チタン合金、純チタン、インコネル、アルミニウム合金、マルエージング鋼、銅など多岐にわたり、案件に応じた選定が可能です。
こんな課題に対応できます
●「試作を外注する時間がもったいない」
社内に金属3Dプリンターがあれば、設計データから直接造形できるため、外部発注していた試作品を短期間で内製化できます。
設計変更が発生した場合もデータ修正のみで再造形に対応可能です。
●「金型の一部が破損したが、丸ごと作り直すのはコストが高い」
パウダーノズル方式であれば、破損部分にだけ金属を肉盛りして補修することができます。
金型全体を再製作するより、コストと時間を抑えられるケースが多くあります。
●「患者ごとに形が違うインプラントを効率的に作りたい」
金型を使わないAM加工の特性上、1個ずつ形状が異なる部品でも柔軟に対応できます。
医療分野でのオーダーメイド製品に強みを発揮する加工方法です。
導入前に知っておきたい2つの造形方式
金属3Dプリンターには複数の造形方式がありますが、代表的なのは以下の2種類です。
それぞれ得意分野が異なるため、目的に応じた選択が重要です。
| 項目 | パウダーヘッド方式 | パウダーノズル方式 |
|---|---|---|
| 仕組み | 敷いた粉末にレーザー照射 | ノズルから粉末とレーザーを同時噴射 |
| 得意なこと | 高精度・複数部品の同時造形 | 補修加工・大型部品の造形 |
| 向いている用途 | 医療機器、精密部品 | 金型補修、大型構造物 |
パウダーベッド方式は精度に優れ、造形テーブルの範囲内で複数部品を同時に作れるため、1個あたりの製作時間を圧縮できるのが強みです。
パウダーノズル方式は既存部品への肉盛りができる点が特長で、切削機能を備えた複合機として使われることも多く、造形から仕上げまで一台で完結できます。
樹脂3Dプリンターではダメなのか
「まずは樹脂3Dプリンターで十分では」と考える方も多くいらっしゃいます。実際、試作段階での形状確認だけであれば樹脂プリンターでも対応可能です。
判断が分かれるのは、「その造形物を実際に使うかどうか」です。
樹脂は金属に比べて強度が低いため、稼働部品や耐荷重が求められる用途には不向きです。
一方、金属3Dプリンターは初期費用こそ高額ですが、試作品ではなく実際に使用できる最終製品まで一貫して製作できる点が大きな違いとなります。
導入コストを抑えたい場合は、まず樹脂プリンターで社内の3D設計ノウハウを蓄積し、必要に応じて金属プリンターへステップアップするという進め方も選択肢の一つです。
材料選定で広がる可能性
金属3Dプリンターが普及し始めた頃は対応材料が限られていましたが、現在ではアルミニウム合金、ニッケル基合金、銅合金、コバルトクロム合金など、選べる材料の幅が大きく広がっています。
材料が増えたことで、適用できる分野そのものが広がっている点も見逃せません。熱伝導性に優れたアルミニウム合金は放熱部品に、耐熱性の高いニッケル基合金は高温環境で使われるタービン部品にといった具合に、材料特性を活かした部品設計ができるようになっています。
なお、カタログに「対応材料」として記載されていても、実際の造形品質は装置や条件によって変わるため、本格導入前にテスト造形で挙動を確認しておくと安心です。
業界別に見る活用の広がり
●航空宇宙:複数部品を一体化する設計(パーツコンソリデーション)により、軽量化と組立工数削減を同時に実現
●医療:骨格データに基づくオーダーメイドのインプラントや人工関節の製造
●自動車:試作・治具製作からスタートし、EV開発における放熱構造の最適化や軽量部品への活用が拡大中
広築では、こうした金属3Dプリンターの特性を踏まえながら、お客様の製造課題に応じた最適な加工方法をご提案しています。導入検討の段階からでも、まずはお気軽にご相談ください。
造形後熱処理が不可欠な理由
金属3Dプリンター(PBF方式)は、レーザーで金属粉末を層状に溶融・凝固させて部品を造形する技術です。しかし、この製法には構造上避けられない課題があります。レーザー照射部分と既に冷えて固まった部分が造形中に混在することで、凝固収縮・熱収縮が発生し、「残留応力」という内部応力が蓄積されます。
この残留応力は、造形品の反り・寸法変化・割れ、さらには造形中の装置停止といったトラブルの原因となり、造形品が大きいほど影響も大きくなる傾向があります。こうした課題を解決する鍵こそが、熱処理工程です。
残留応力対策としての熱処理の役割
残留応力への対策としては、サポート設計の最適化や形状設計の工夫も有効ですが、最も直接的かつ効果的な手段が熱処理です。特に、造形品をベースプレートから切り離す前に応力除去焼鈍を行うことで、切り離し後の変形を大幅に抑制できます。熱処理を行わずに切り離すと、内部に閉じ込められていた応力が解放され、造形品の形状が変化してしまうリスクがあります。
弊社では、こうした残留応力の特性を踏まえた熱処理設備・プロセス設計により、造形品の品質安定化を支援しています。
AlSi10Mgにおける熱処理効果
軽量・高熱伝導という特性を持つAlSi10Mgは、造形直後は高強度ながら伸びが低く、脆さが問題となります。T6熱処理(溶体化+時効硬化)を施すことで、強度・靭性・熱伝導率のバランスを最適化することが可能です。
熱処理を行うことで造形直後の課題であった「伸びの低さ(脆さ)」が大きく改善されます。特に伸びの向上は、強度と靭性のバランスを取るうえで重要な指標であり、実用部品としての信頼性を高める要素となります。
一方で、密度は熱処理前後で変化があまりなく、熱処理はあくまで金属組織内部の析出構造を変化させることで特性を引き出すプロセスであるということになります。これは、精密な温度・時間管理を行う熱処理炉があってこそ実現できる効果です。
マルエージング鋼における熱処理効果
高強度・高靭性・優れた溶接性を持つマルエージング鋼も、造形直後の状態では本来の性能を発揮できません。以下の2段階熱処理により真価が引き出されます。
溶体化処理:950〜980℃で1〜2時間保持後、急冷し低炭素マルテンサイト組織を形成
時効硬化処理:480〜500℃で3〜6時間保持後、徐冷することでナノスケール析出物を生成
この工程管理の精度が、金型・航空宇宙・医療・自動車分野など高信頼性が求められる最終製品の品質を左右します。
時効硬化処理の特徴と設備選定の重要性
時効硬化処理は、比較的低温(約500℃前後)で行うため、焼入れ(800〜900℃からの急冷)と比較して変形リスクが小さく、複雑形状の3Dプリンター造形品に適した処理方法です。析出強化系ステンレス鋼、マルエージング鋼、ベリリウム銅など幅広い材質に適用可能ですが、得られる硬度は焼入れに劣るため、用途に応じた処理方法の選択が求められます。
熱処理設備メーカーとしての視点
上記の比較表が示す通り、金属3Dプリンティングにおいて造形はあくまで工程の一部であり、最終的な機械的特性を決定づけるのは熱処理工程です。応力除去焼鈍から溶体化処理、時効硬化処理まで、素材特性に応じた精密な温度・時間管理を実現する熱処理炉の選定こそが、造形品の品質と歩留まりを大きく左右します。
弊社では、こうした3Dプリンティング特有の熱処理ニーズに対応した設備・ソリューションを提供し、お客様の造形プロセス全体の品質向上をサポートいたします。
| 素材 (金属、PBF方式) | 用途例 | 材質の特性 | 熱処理 |
|---|---|---|---|
| ステンレス鋼 (SUS316L、17-4PH(SUS630)) |
・工業用部品 ・治具 ・医療分野機器 |
高い強度と優れた耐食性 | <SUS316> ・固溶化処理:1000~1150℃ ・焼鈍(再結晶焼鈍・応力除去):400~450℃(強度・硬度を維持する場合) 3Dプリンタ材などでの時効・高温保持処理(特性調整用) 溶体化+時効的な高温保持で組織均一化と硬さ調整を行う研究例あり <SUS630> 1020~1060℃の固溶化熱処(溶体化熱処理)後、 析出硬化熱処理(時効硬化熱処理) H900が約480℃、H1025が約550℃、H1075が約580℃、H1150が約620℃ |
| マルエージング鋼 (18Ni-300) |
・金型・工具 ・航空宇宙 ・医療分野機器 ・自動車 |
引張強度が2,000MPaを超えるグレードもあり、過酷な環境で使用される部品に適している。 | 熱処理は大きく2段階。 まず溶体化処理として950〜980℃で1〜2時間保持、 その後急冷して低炭素マルテンサイト相を形成する。 次に時効化処理として480〜500℃で3〜6時間保持した後、徐冷する。 この時効処理によって、ナノスケールの析出物が母相に形成され、 靭性を損なうことなく強度が飛躍的に向上する。 |
| アルミ合金 (AlSi10Mg、Scalmalloy※1) |
・自動車 ・航空宇宙 ・ロボット・機械部品 ・医療分野機器 |
シリコンの含有量が多いことでPBF方式との相性が良い点。 シリコンは溶融温度を下げ、溶融プールの流動性を高めるため、 造形時の安定性が向上する。AM向けアルミ合金として広く普及しているのは、この造形のしやすさによるところが大きい。 エンジン部品やヒートシンク(放熱板)など、効率的な放熱が求められる用途 |
<AlSi10Mg> ・応力除去:約250〜300℃×2〜3h ・T6処理:溶体化約520〜540℃×1〜2h →水冷→時効約160〜180℃×4〜8h →3Dプリンタ材ではT6で強度低下・延性向上が 起こるため、用途に応じて条件最適化が重要 ・T5処理:成形後に人工時効のみ 時効約160〜180℃×4〜8h <Scalmalloy(Al-Mg-Sc-Zr)> 約325℃ × 4時間 保持後、炉冷 |
| チタン合金 (Ti-6Al-4V) |
・航空機部品 ・人工関節 ・医療用インプラント |
比強度(強度と重量の比率)が高く、 耐食性・生体適合性に優れている |
・応力除去焼なまし:500〜650℃ 数時間 ・焼なまし(α+β域):700〜800℃ 数時間空冷 ・溶体化+時効(STA): β直下〜β域で溶体化900〜980℃程度後、500〜600℃時効 ・単なる時効処理:400〜600℃ 1〜4h |
| インコネル (Inconel 718、625) |
・ガスタービン ・ロケットエンジン部品 |
高温環境下での強度や耐熱性、 耐腐食性に極めて優れている |
・溶体化処理:約980〜1000℃×1~2時間 ・第1段時効:約720℃×8時間 炉冷で約55℃/hで620℃まで ・第2段時効:約620℃×8時間 空冷 →ポイントは720 ℃付近と 620 ℃付近の二段時効で γ′、γ″を析出させ高強度化する |
| 銅および銅合金 (Cu、CuCrZr※2) |
・高効率な熱交換器 ・溶接チップ |
優れた導電性と熱伝導性 | <Cu> ・応力除去焼なまし:500〜650℃ 数時間 ・再結晶焼なまし:約300〜500℃ 熱間加工温度域 約700〜900℃ <CuCrZr> CuCrZr は「溶体化 → 冷却 → 時効硬化」で使う析出強化型合金が一般的 ・溶体化処理:約950〜1000℃ 0.5〜2h程度 ・時効硬化:約450〜500℃ 1〜4h程度 空冷 |
| 工具鋼 (SKD61、H13※3) |
・熱間ダイス鋼 ・アルミ押出金型 ・ダイカスト金型 高温で使う金型に使用 |
<SKD61> ・焼なまし:約750〜800℃保持後、炉冷 ・焼ならし:約900〜950℃空冷 ・焼入れ:1000〜1030℃保持後、空冷または油冷 ・焼戻し:550〜650℃で2回以上、空冷 <H13> ・焼なまし:約840〜870℃炉冷 ・焼入れ:約1000〜1030℃保持後、油冷またはガス冷 ・焼戻し:2回以上、540〜620℃、各回2h以上空冷 |
|
| コバルトクロム合金 | ・歯科用インプラント ・人工関節 |
優れた耐摩耗性と耐食性、高い強度 | ■溶体化処理 鋳造や鍛造後のデンドライト組織や偏析を均一化し、 機械特性を安定。 おおよそ1100〜1200℃前後で加熱し、保持後に冷却 ■応力除去焼なまし 600〜900℃程度での保持により残留応力低減と組織の均一化 が報告されている ■酸化熱処理(歯科用メタルセラミック) 約960〜980℃程度での酸化熱処理が推奨される例あり |
※1 スカルマロイ(Scalmalloy→Al-Mg-Sc-Zr)エアバス社のグループ企業であるAPWORKS社によって開発された、金属3Dプリンター用の高性能アルミニウム合金
※2 CuCrZr合金 銅に少量のクロム(Cr)とジルコニウム(Zr)を添加した析出硬化型の高性能銅合金
※3 H13鋼 H13は熱間ダイス鋼で、JISではおおむねSKD61に相当






