【Q&A回答】2026年金属熱処理技術 Webセミナー
SUPの焼入温度を高くすると焼入性がよくなる理由は、オーステナイト結晶粒径が大きくなり、
CCTが右側に動くという理解でよろしいでしょうか?
(講義1.鋼の焼入れ焼戻し①)
その通りです。
ただし、この傾向はすべての鋼種に共通の事象で、オーステナイト結晶粒径の大きさだけでなく、
オーステナイト化温度を高くすると炭素やその他合金元素の固溶量も増加しますから、CCT曲線は長時間側(右側)に移行します。
したがって、固有のCCT曲線やTTT曲線を表示する際には、その鋼材の化学組成、結晶粒度、オーステナイト化温度の提示も必須になります。
資料P12 右表の加熱雰囲気(N2又は真空)? 保持時間はどれぐらいでしょうか?
(講義1.鋼の焼入れ焼戻し①)
分かりにくい図で申し訳ありません。
焼入加熱条件は両図とも共通で、右図の焼入加熱も塩浴中で15分間保持しています。
資料P14 左表 戻し後の冷却は、なぜ水冷なのでしょうか?
(講義1.鋼の焼入れ焼戻し①)
とくに水冷の意味はありません。
高温焼戻しぜい性を意識したもので、炭素鋼は急冷して、SCM材は空冷したということです。
この焼戻し冷却条件によって衝撃値は変わると思いますが、焼戻し硬さには影響ありません。
資料P23 高温焼戻しぜい性は急冷で防止できるが、低温焼戻しぜい性は急冷しても効果がないでしょうか?
急冷した場合、硬さは上がらないでしょうか?
(講義1.鋼の焼入れ焼戻し①)
低温焼戻しぜい性を生じる原因は、残留オーステナイトのベイナイト化、プレート状セメンタイトの析出、不純物(P、Nなど)の
粒界析出などによるといわれており(熱処理技術入門 P90による)、これらの現象は冷却速度には無関係に生じるものだからです。
また、焼戻し加熱後に急冷しても組織変化はありませんので、硬さに影響はありません。

調質材(H鋼)と通常のものとで、同じ焼入れをした場合に、機械特性や硬度に差がでますか?
(講義1.鋼の焼入れ焼戻し①)
例えば、SCM435とSCM435Hの同じサイズの鋼材で化学組成も同一であれば、同じ焼入れをした場合、基本的には硬さの差はありません。
H鋼は焼入性を保証しているだけですから、一般鋼とH鋼には関係なく個々の規格値内で組成が異なれば、
同じ焼入れをしても硬さや機械特性も異なってきます。
ただし、H鋼は太さに応じて内部硬さが保証されてますが、一般鋼は保証されていません。
資料P26 550℃や600、700℃の硬度はどのように測定したのでしょうか?
(講義1.鋼の焼入れ焼戻し①)
高温ビッカース硬さ試験機を使用しており、測定用試験片、加熱雰囲気、測定条件などは図7(P24)に示す通りです。
【試験片寸法〔直径:15mm、長さ:30mm〕、焼入加熱〔N2雰囲気、20分保持〕、焼戻し加熱〔大気加熱、120分保持〕】
それぞれの温度と室温に戻した時の硬さを繰返して測定しています。
P26の図は、これを繰返して10回までのデータを示したものです。
資料P31 電解研磨と研磨では、電解研磨の方が面粗さは良いイメージがあります。
一方、資料では研磨の方が電解研磨と比べて疲労強度が高い理由は、
電解研磨において何か疲労強度を落とす原因があるのでしょうか。
(講義1.鋼の焼入れ焼戻し①)
この出典は日本機械学会の「金属材料疲れ強さの設計資料Ⅱ(表面効果)」であり、この文献によりますと、これら個々の表面粗さについては
記述されていませんので、詳細は不明です。
私の考えとしましては、電解研磨は表面粗さは研磨と同等のものが得られると思いますが、機械的な研摩では表面に圧縮残留応力を生じますので
疲労強度には有利にはなると思います。
また、研磨および研削と電解研磨、熱間圧延および鍛造のデータの出典資料は異なるとのことですから、電解研磨と研磨の詳細な比較は
不可のようです。
この図では、単純に表面を仕上げることによって疲労強度が高くなることを示しています。
金属組織観察で、炭化物とセメンタイトを見分ける方法はありますか?
(講義2.鋼の焼入れ焼戻し②)
セメンタイトの形状には、板状、球状および微細粒子があり、その中でも板状のものはパーライト変態によって生じて層状ですから、
金属組織観察でも容易に判別できます。
また、セメンタイトは鉄の炭化物ですから、基本的には炭素鋼や低合金鋼に存在します。
「焼入れ・焼戻し②」のP5に示しますように、高合金鋼の場合は、それぞれ合金元素に応じた炭化物が存在します。
今回のセミナーでは紹介しませんでしたが、SKD11など高合金鋼でも窒化拡散層内ではセメンタイトを生じますが、この場合には
「ピクリン酸ソーダ水溶液(ピクリン酸 2~5g、苛性ソーダ 25g、水 100ml)」でエッチングすることによって他の炭化物と見分けることができます。
一般の機械構造用鋼や炭素工具鋼などでは、このエッチング液によってフェライトとセメンタイトの判別やセメンタイトの分布状態などを
明確に観察できます。
SKD61の材質でダイスを製作し、断続的に400℃で使用する場合、焼戻り硬度の低下については、
500℃程度の温度で使用する場合よりも硬度低下は低いですか。
また、硬度低下程度が予想出来れば教えて下さい。
使用条件としては、400℃で120h程度使用して、その後、常温として停止することを繰り返します。
SKD61のダイスでしたら、当然高温で使用するのが普通ですから、使用温度よりも十分に高温で焼戻しすれば、使用に伴う軟化は
ほとんどないと思います。
SKD61でしたら一般には550~600℃で焼戻しすると思いますが、保持時間を十分に取られて焼戻しされていれば、500℃以下での
使用でしたら、温度が低いほど軟化程度は緩慢になります。
とくに軟化程度は温度に比べて時間に対する感受性は低いですから、当然500℃での使用よりは400℃で使用するのであれば、
軟化の問題はほとんどないと思います。
この場合の問題は、軟化よりもサーマルクラックのほうが問題になるのではと思います。
SKD61でHRC60程度に熱処理した部品を400℃に昇温して、SS400組成の線材で出来た金属ブラシで
ブラッシングしても、金属ブラシによる摩耗はほとんど考えなくても良いですか?
ブラッシング時間は、2h程度を想定。
基本的にはSS400は軟質ですから接触部が発熱しなければSKD61側の摩耗は無いでしょうが、摩擦熱が発生したり400℃に昇温した状態でしたら、
当然両者は表面酸化しますから、この酸化物による摩耗があると思います。
すなわち、摩擦熱や400℃加熱によって、SKD61でしたらクロム酸化物、SS400でしたら鉄の酸化物を生じ、これらの酸化物は非常に硬質です。
これらの酸化物は研磨によってはく離されて、SKD61とSS400のブラシ間を転がることになりますので、表面を傷つけることになると思います。
以前SKH51で刃物を納品していましたが、超音波の振動により柔らかいものをカットする刃物でしたが、
振動が伝わらないとクレームをうけ粉末ハイス(商品名HAP5R)で納品した結果、良くなりました。なぜですか?
超音波スライサーという機械での使用です。
超音波に関しましてはほとんど知見はありませんが、SKH51とHAP5Rの材質の違いで、一方のみ超音波が伝わらないことはないと思います。
この場合、SKH51は超音波探勝できないということでしょうか。
必要でしたら、東京都立産業技術研究センターに超音波の専門技術者もいますので、お問い合わせください。
等時間で温度による変化について分かりました。等温度で時間が変わった場合の変化は基本どうなりますか。
鋼材の治具を300~900℃の範囲で使用しています。1サイクルで30min~1h程度ですが、
どのくらいで使用できるかに関する劣化状況を定量的に評価したいと思います。
「鋼の焼入れ・焼戻し②」のP26のことでしょうか。
まず重要なことは、その金型の焼入焼戻しにおいて焼戻温度が使用温度より十分に高ければ、長時間使用できることになります。
加熱に伴う軟化程度は時間よりも温度のほうが敏感ですから、この図では加熱保持時間は60分(1時間)一定として示しています。
したがいまして、この図で5回の時は5時間保持、10回のときは10時間保持と同等です。
焼戻温度と同じ温度で使用した場合は時間とともに徐々に軟化しますが、焼戻温度よりも50℃低い温度で使用するのであれば、
長時間使用でも軟化しないことが予想されます。
ただし、このデータは酸化しない雰囲気(Ar)で測定したものですが、実際の使用環境は大気中でしょうから、軟化よりも表面酸化のほうが
問題になることも考えられます。
焼入炉・焼戻炉にご興味がある方は
こちらをご覧ください。
ご検討されている方はぜひご活用ください。
処理温度外の温度で処理した場合はどんな状況になりますか?
(講義3.表面硬化処理)
すべての表面硬化処理で共通のことは、処理温度が通常温度よりも低温であれば硬化層厚さは薄くなり、
さらに温度が低すぎれば硬化層は形成されなくなります。
高温であればその逆ですが、表面処理の種類によって処理温度の変化に伴う現象は異なりますので、
具体的な名称を提示いただければ状況を説明いたします。
例えば、浸炭焼入れと窒化処理では、処理温度に伴う現象は全く異なります。
低温表面処理品は処理温度近傍か以上の温度で使用することは可能でしょうか。注意点はありますでしょうか。
(講義3.表面硬化処理)
すべての表面処理品に共通のことは、処理温度より低温で使用されれば問題ありません。
低温表面処理品とのことですが、表面処理の種類によって使用の可不可や注意点は異なりますので、
具体的な名称を提示いただければ説明いたします。
基本的には処理温度より高温で使用しますと、表面処理層の軟化や変質は当然ですが、製品の変形や変寸を生じる恐れもあります。
SS材のミガキ品やクロカワ製品の防錆をあげる方法に窒化処理は有効ですか?
現状は耐熱塗装を施してまいますが、お客さんは不満があるみたいです。
SUSに変更もよいのですが、熱膨張でねじれが発生することを嫌います。SS材でよい防錆方法は何ですか?
(講義3.表面硬化処理)
ミガキ品であれば、また処理コストに問題なければ化合物層の厚い軟窒化処理の適用は防錆効果は期待できます。
クロカワ材でしたら窒化処理は不可でしょうから、通常は塗装しかないと思います。
SS材でしたら、リン酸亜鉛やリン酸マンガンなどのリン酸塩処理(化成処理)なども有効かと思います。
酸窒化について教えて下さい。
窒化処理後に水蒸気処理(ホモ処理)する目的はよく分かりました。
一方、いわゆる酸窒化処理とは窒化前に酸化処理をすることを指すと思います。
窒化前に酸化する意義(目的)は何でしょうか。
また酸化すると窒化における窒素の入り方が良好になると聞いたことがあり、実験でもそのような傾向がみられました。
この酸化により窒化のされる度合いが向上するメカニズムが分かれば教えて欲しいです。
(講義3.表面硬化処理)
一般的な酸窒化処理とは、アンモニアガスに酸化性ガス(水蒸気、空気、二酸化炭素など)を添加した雰囲気中で処理するもので、
窒化速度も速くなると言われています。
酸窒化処理層は窒化硬化層の最表面に酸化物(Fe3O4)層が形成され、耐食性と摺動性が付加されます。
前処理としての酸化処理は、窒化速度を早めるために行われる処理であり、得られる窒化硬化層は一般の窒化処理と同じですから、
酸窒化処理とは言いません。
現在の酸窒化処理としては、セミナーでも紹介しましたような軟窒化処理後に酸化処理するのが一般的になっていると思います。
酸化の窒化促進効果の原理はよく分かりませんが、おそらく拡散速度の速い活性な「NO」の生成によるものと思います。
塩浴について教えて下さい。
よく塩浴で焼入れた場合、変形が抑えられて高精度な焼入れができると言われますが、
その理由は蒸気膜段階が無いからでしょうか。
それとも、蒸気膜段階があるもののホット油焼入れと同じ程度の変形量の認識を持つべきでしょうか。
また、塩浴は蒸気膜段階が無い理由は、沸点が高い冷媒だからでしょうか。
(講義3.表面硬化処理)
その通りです。
塩浴の沸点は鋼の焼入温度よりも高温ですから、焼むらの原因になる蒸気膜段階が存在しません。
ちなみに、塩化カリウム(KCl)や塩化バリウム(BaCl2)の沸点は1400℃以上の高温です。
軟窒化処理をすると疲労強度が上がる、とご説明いただいたことについて質問です。
疲労強度が上がる理由は、窒化加工物ができ、残留圧縮応力が増すためでしょうか?
また、表面の化合物層およびポーラス層は疲労強度を下げる方向に働かないのでしょうか?
化合物層・ポーラス層は脆いというのが自分の認識です。
そのため化合物層・ポーラス層で亀裂発生→亀裂の拡散層への進展により破壊、ということが起きないか
心配になりました。
それとも、ご紹介いただいたデータは、化合物層・ポーラス層を除去した上での試験結果でしょうか?
(講義3.表面硬化処理)
軟窒化処理品は化合物層、拡散層の存在によって疲労強度が高まりますが、この中でも拡散層は厚いほうが最も効果的です。
すなわち、軟窒化処理品は表面層は圧縮応力を呈し、内部に向かって次第に引張応力に変わりますから、
拡散層は厚いほうが疲労限度は高いと報告されています。
すなわち、亀裂発生は表層からではなく、硬化層直下が起点になりますから、化合物層は直接的には問題にならないようです。
平滑材の場合には、化合物層は厚いほうが疲労強度が高いというデータもありますし、化合物層を除去してもあまり変化ないとの報告もあります。
しかし、切欠材の場合には、化合物層は除去したほうが疲労強度は上昇すると報告されています。
この場合は、切欠効果の影響が大きいでしょうから、ポーラス層の存在は切欠材では問題になると思います。
ここで紹介しているデータはガス軟窒化処理のままで測定されています。
なお、化合物層の影響などの詳細なデータが必要でしたら、P40に記載しました文献を参照してください。
表面硬化処理鋼の疲労強度のデータが詳細に紹介されています。
※文献:鉄の窒化と軟窒化(アグネ技術センター)
次世代窒化装置ですが、制御ができるとのことですが、どの様に制御しているのでしょうか?
H2濃度、NH3濃度等でしょうか?
(講義3.表面硬化処理)
詳細につきましては下記ボタンより設備ページをご確認下さい。
さらにご興味がある場合はお手数ですが、右上のお問合せよりご連絡を頂けますと幸いです。
次世代制御窒化装置
「NITRONAVI® 搭載 RAV-N」
資料P25 光沢度が850℃までは下がるが、1000℃で上がっているのはなぜでしょうか。
(講義4.熱処理設備)
この図において、加熱しているアルゴン(Ar)ガスは、酸化性ガスである酸素(O2)および水分(H2O)がppmオーダーの高純度ガスですから、
1000℃以上の高温では酸素分圧が低くなって酸化物の解離反応を生じますので、むしろ光沢度が高まります。
P27の窒素ガスでも、酸素や水分が若干多いのでP25よりは光沢度の高まる程度は小さいのですが、同様の傾向が見られます。

資料P30 SUS304のバスケットを高真空高温で加熱するとCrが減るグラフがあるが、
例えば、18.8→15%に減ったバスケットを同じ条件で繰り返し使用すると、15→13%などへさらに減るでしょうか。
(講義4.熱処理設備)
当然最表面のCr濃度が低下すれば、内部のCrが表面に向かって拡散移動しますので、最表面のさらなるCr量の減少は当然だと思いますし、
脱Cr領域も内部に向かって広がって行くと思います。
雰囲気ガスの鋼に対する高温加熱時の化学的資質による分類で、酸化性と、脱炭性ガスの組成が同じでした。
酸化性と脱炭性については、どのように制御することで実現されるのでしょうか。
鉄(Fe)と酸化性ガスとの反応は単純に酸化反応ですから、それらのガスが存在すれば鉄の酸化物が生成され、さらに鋼中の炭素(C)は
酸化性ガスと反応してCOやCO2ガスになり脱炭現象を生じます。
鋼中の炭素は変態点(727℃)以下では安定な炭化物として存在していますから、脱炭は生じませんが、変態点を超えると炭素は生地中に
固溶して反応しやすくなります。
酸化性と脱炭性を制御するのであれば、酸化性を還元性にして水分が存在すれば、酸化しないで脱炭だけ生じます。
すなわち、還元性ガスを使用して水分を供給すれば、酸化はしませんがCとの反応のみが進行して脱炭を生じます。
また、乾燥空気または乾燥酸素で加熱すると、酸化が優先されますから脱炭されにくくなります。
しかしこの場合でも、加熱温度が高くなれば酸化と脱炭を生じやすくなると思います。


